活動成果2

2 調査活動

介護保険制度検証のための基礎調査(1999~2003年度)

5年間の継続調査

「市民シンクタンク ひと・まち社」との共同調査として、介護保険制度検証のための基礎調査を実施しました。
調査は制度導入前から開始し、高齢者の加齢による経年変化に制度が対応できているか、社会的入院から在宅介護への移行を可能にする制度であるか等について検証することを目的とし、調査終了後に報告書を発行、報告集会を開催しました。第1回調査は、対象者758名、調査員427名でスタート、様々な事情により、最終回は集計対象が264票となりましたが、5年間10回に及ぶ利用者に向けた定点的な調査は他では例がなく、調査に基づいた政策提案は大変重みのあるものとなりました。(各回概要:資料編p5)

事例検討、地域福祉計画

2004年度は専門家のアドバイスを得て、ひと・まち社とともに、「調査から描く市民の地域福祉策定委員会」を発足、改めて5年間の調査全体から制度の課題を検討するため、継続データとして得られる103人を中心とした分析を行い、経年変化による傾向・個別事例の検証を試みました(「5年間の変化・103人の事例集」)。
また、5年間の調査から、地域で暮らし続けるためには市民事業やコミュニティが必要であることが明確になりました。介護保険制度を超えた地域の仕組みづくりとして、「地域福祉計画」作りを目指し、ワークショップや先進自治体について学習、市民参加でつくるこれからの地域福祉計画のあり方を共有、「介護保険制度検証のための基礎調査最終報告集会」を開催し報告しました(2005年3月)。

調査から仕組みづくり

調査を通じて明らかになった課題については、地域福祉サポート・ザ・サポート運営委員会による「サービスチェックリスト」の作成や、「地域福祉市民相談員養成講座」の開催など、地域の仕組みづくりの活動につなげました。(参照:活動成果5.地域での事業化の後押し)

介護予防・自立支援に関する高齢者実態調査(2006年~2008年)

介護保険制度は、2006年の改定で“予防重視型システム”への転換が打ち出され、新予防給付や地域支援事業が創設、認定区分でいうと新たに要支援1・2が新設されました。介護予防の考え方は必要ですが、具体的な予防重視型システムは、サービス切り捨てにつながらないのか危惧されます。そこで、介護保険制度を利用する100人の対象者に対し、3年間3回の継続調査を行い、併せて、自治体がどのようなサービスを提供し、在宅での高齢者の生活がどのように変化するのか、事業者の実状、地域包括支援センターに期待する機能と実態について調査、検証しました。(市民シンクタンク ひと・まち社との共同調査)(各回概要:資料編p5)

住まい方に関する調査・研究

ACT、悠遊、生活クラブ3者による「住まい方研究会報告書(2007年11月)」での課題を受ける形で、生活クラブ運動グループが連携した活動や制度提案について具体的に検討することを目的に、2008年7月、福祉協議会のもとに「住まい方に関する調査・研究チーム」が発足しました。目指したい共通テーマを「ひとり(若者・高齢者)でも安心できる住まい方」の実現とし、①自分に合った住まいが確保できる、②自分らしく最期まで生きる、③頼れるコミュニティがある、④環境に配慮した住まいになっている-の4つを目標に掲げ、7回のチーム会議で議論、a)現行制度のしくみと問題の整理、b)協働してつくり出せる機能の検討、c)制度提案の3つの柱にそって、2009年1月に報告書をまとめました。
チームの調査・研究を通して、既に運動グループによる様々な実践が行われていることを再認識し、一方で、その情報が必ずしも各団体に共有されていないことも、改めて確認しました。まず福祉協議会として各団体が取り組んでいる「住まい方」をテーマとする活動・事業の情報を集約し、それを各団体の実践のなかで活かしていけるようにしていくこと、具体的には、情報発信や学習の機会の共催・連携の仕組みが求められます。また、報告書では、以下の2点を今後の検討課題としました。
生活クラブ運動グループの連携で推進したい住まいに関する重点政策について、時期的な整理をしつつ、実行計画を立てる。
住まいのプラットフォーム機能について研究、実行計画を立てる。
課題は、その実態づくりを検討する場として設置された「住まい方・居場所づくり推進チーム(2010年6月~2011年3月)」の議論に引き継がれ、住まいのプラットフォームに必要なしくみの検討は、さらに、インクルーシブ事業連合の課題とすることになりました。
(討議経過と住まいに関する重点政策については資料編p6)

先駆事例の視察(福祉ツアー)

福祉の先進的事例の研究を目的とした「福祉ツアー」を、地域福祉推進会議の時代から継続して企画実施してきました。分野ごとのまとめは以下のとおりです。(各回の概要は資料編p7~9 一覧表参照)

高齢者福祉分野

90年代は北欧等、海外の福祉先進国を中心に視察を実施(95・96・97・99年)しました。
2000年には介護保険制度をテーマにドイツを視察、さらに、介護予防と福祉の基礎としての住まいをテーマに、2006年度はスウェーデン、フィンランドを視察しました。日本の介護制度は、導入5年後の見直しで「予防重視型システム」ともに、療養病床の見直しなど、施設介護から在宅介護への方針転換を打ち出しました。「高齢者の居住の安定確保に関する法律(2001年制定)」も何度か改訂を重ね、福祉の視点でも「高齢者の住まい」が重要な政策課題となっています。
2008年度は、コミュニティケアをテーマに、オーストラリアを訪問、施設から在宅へと大胆な政策転換を行い、中福祉中負担の国として知られるオーストラリアのコミュニティケアは、課題も含め、北欧とはまた違った意味で参考になりました。

子育て支援分野

少子化の急速な進行や、子どもを取り巻く痛ましい事件が社会問題となり、子育ての不安や負担を軽減する「子育て支援対策」は大きな課題です。福祉協議会では、「子育て支援のしくみづくり」を方針の一つに掲げ、2001年、2002年と2年連続してカナダの子育て家庭支援策を視察しました。ツアー参加者や学習会参加者の中に「子育てを孤立させない、地域社会での子育て」のための仕組みづくりへの共感が広がり、多様な子育て支援の仕組みづくりの実践として、地域活動・事業の展開につながりました。
また、西和賀町視察(2009年度)では、事前学習会(講師:「いのちの作法」プロデューサー)等をきっかけに、葦牙あしかび*の上映会が各地で連続して行われました。

*葦牙-こどもが拓く未来-(監督:小池征人)…親に虐待された子ども達の心の軌跡と、それを見守り、育み、心の回復に真剣に立ち会おうとする人々の記録。岩手県盛岡市にある児童養護施設「みちのくみどり学園」が舞台で、西和賀町も生活体験合宿で子ども達を受け入れている。

障がい者福祉分野

2003年4月に支援費制度*が導入、ノーマライゼーションの理念に基づく「措置から契約へ」という方向性には当初期待も寄せられましたが、具体的には、障がい種別の縦割りの仕組みや、就労支援策が不十分であることの問題点が指摘されました。こうした社会状況等を背景に、2003年の福祉ツアーでは、生活クラブの福祉の原点ともいえる北海道古平町「共働の家」等を訪問しました。
また、マウリツィオ・マロッタさんを招いてイタリアの実践を学んだことをきっかけに(6.ネットワークの形成参照)、共同連*との交流が始まり、2004年の福祉ツアーは「イタリア社会協同組合と障がい者の就労支援」、2005年度は国内の実践例として、共同連の共同事業所*他7ヶ所を視察しています。違いを認め合い、働くことを通して社会参加できる仕組みは、就労支援にとどまらず、「共に生き、共に働く」ための地域社会づくりということができ、私達の目指すべき方向性として、「地域福祉ビジョン」(活動成果1.運動グループの活動共有とビジョンの策定)につながりました。また、新たに障がい者ヘルパー養成研修(視覚障害者移動介護従事者養成研修、全身性障害者移動介護従事者養成研修)も実施しました。

防災とまちづくり

1995年に発生した阪神淡路大震災、その後のまちづくりを学ぶため、96年7月・11月、97年11月に尼崎や神戸を訪れました。10年後の07年にも再び視察を実施、日常的なコミュニティの重要性や復興時におけるNPOの役割等を学びました。また、防災未来館での語り部の被災体験談とアドバイスは、その後の、女性政策につながっています。

住まい

住まいのテーマでは、伊川谷プロジェクトやグループハウス尼崎などを視察、住む人が、単にサービスの受け手ではなく、自分の関われる範囲で社会に関わり、何らかの役割を担うなど、地域コミュニティにおける住まいの視点や、住み続けられるための福祉サービスについて学びました。また、オーストラリア視察では、原則、年金の85%程度の負担で住まいと食事、介護が保障される仕組みを学び、老後の暮らしと負担の考え方として参考になりました。

コミュニティケア

これまでの福祉ツアーの視察は、各テーマで企画・実施していますが、視点としては、全て“コミュニティケア”に通じると言うこともできます。特に終盤は、市民参加のまちづくり型福祉を意識した企画となりました。
岩手県西和賀町(09年度)では、「すこやかに生まれ、すこやかに育ち、すこやかに老いる」という生命尊重の理念を、コミュニティと自治体が継承・実践しています。福岡県大牟田市(10年度)では、「徘徊=ノー」ではなく、「安心して徘徊できる町づくり」に向け、市民と事業者・行政が一体となって取り組んでいます。さらに、社会福祉法人 グリーンコープ等の取り組みは、今後のインクルーシブ事業連合が果たすべき役割と機能について、課題も含め具体的な示唆を得た視察となりました。

*支援費制度…これまでの「措置制度」を改め、契約に基づきサービスを利用するという新たな制度として、2003年4月に導入されたが、障がい種別の縦割りサービスや精神障がい者が対象外になっていたこと、就労の場の確保支援策が不充分、支給決定のプロセスが不透明等の課題が指摘された。その後、これらの課題解決のため、障がい種別に関わらないサービス体系の一元化、基礎自治体が一元的にサービス提供、障がい程度区分の設置、就労支援の強化、財源確保(利用者の1割負担)などを柱とする「障がい者自立支援法」が制定された。この自立支援法もまた、応益負担を始め、特に当事者から大きな反対運動が起こった。2009年9月の連立政権合意において、「障害者自立支援法」は廃止、「制度の谷間」がなく、利用者の応能負担を基本とする総合的な制度をつくることとされた。障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする我が国の障害者制度の集中的な改革のため、障がい者制度改革推進本部や、障がい者が参画する「障がい者制度改革推進会議」が設置され、障害者基本法の一部改正が2011年7月に成立、「(仮称)障がい者差別禁止法」の制定に向けた議論が現在も続いている。障がい害者自立支援法に代わる「(仮)障害者総合福祉法」は、2012年通常国会提出・2013年8月までの施行が目指されている。

*共同連(特定非営利活動法人 共同連)…1981年 差別とたたかう共同体全国連合として準備会結成、1984年正式に発足。障がい者と健常者が共働で働き、障がい者の労働権の確立を目指す「共働事業所」づくりを進めてきた。その後、様々な困難とたたかう人々(社会的排除を受ける人々)との連帯による、労働市場から排除されている人々の「社会的事業所」作りを提唱、現在は、社会的事業所の法制化に向けた取り組みを行っている。

その他
子育て調査(2004年度)

子育て支援に力を入れている自治体情報を把握するため、地域協議会を中心に、自治体の今後の政策、市民発の自発的な動きに関する聞き取り調査を実施しました。22自治体からの調査結果を、生活クラブ運動グループ・東京運営委員会主催の「地域力・市民力」まちづくりフォーラムの自治体調査としてまとめた資料としました。

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